ふと九州を出てみたくなる日がある。
でも飛行機や新幹線に乗ってどこかへ旅行するほど予定も予算も立てていない。しかし唐突にふと九州を出たくなる。九州を出るだけで非日常体験を大いに得られるからだと思う。
そんなときに僕が住んでいる福岡県の隣にある山口県はうってつけの日帰り旅行先だ。
今回は山口県第一の都市である下関を訪れてみた。
本州最西端の駅である下関駅。
ここはJR九州管轄の端でもあり、JR九州とJR西日本が混在する駅だ。
下関駅の9番乗り場にて、山陰本線を走る小串行きのキハ40系を撮影した。
なんだか一気にローカル感が出てきて旅情を感じられた。やっぱり国鉄車両はいいなぁ。
写真の右側に少し見える水面は川のように見えて実は海。
下関駅は海が見える駅でもある。
下関駅から外に出てペデストリアンデッキを歩いていると、ちょうどさきほど撮影したキハ40系が発車していた。
ディーゼルの力強い音がこちらまで響いてくる。
しばらく国道9号線を歩いて海沿いに出てみる。
唐戸市場を少し過ぎたあたりで関門海峡を撮影。狭い海峡を大きなタンカーが航行中だった。時には10ノット(時速約18キロ)にもなる速い潮流を物ともせず突き進んでいく。
関門海峡は日本列島において、日本海と太平洋を往来できる非常に重要な航路だ。ここを過ぎると次に太平洋に出るためには、青森県沖の津軽海峡まで北上しなければならない。また日本海側の各都市から大阪へ向かう最短航路でもある。江戸時代から明治にかけて活躍した商船、いわゆる北前船もかつては関門海峡を航行していたという。
その昔は木造の帆船がこの海峡を渡っていたと考えると、エンジンを積んだ船が速い潮流を物ともせず航行している様子を見ればいかに現代の技術が進化したものだと実感できる。
海沿いを更に歩いて進んでいくと、小さな漁港が現れた。
大型船ばかりが行き交う関門海峡を眺めていたら気づかなかったけど、漁船のような小型船舶にとっても重要な航路であることには違いない。
しかし人の気配がない小さな漁港はどこか寂しさすら感じさせる。こういう風景こそフィルム写真がよく似合うと思った。
それにしても海辺のギリギリに建つマンションもまた味わい深い。
あのマンションに住む人はたくさんの船の往来が見られて飽きないだろうなぁ。
関門橋をあたりまでくると、何やら不思議な横断歩道が。
この横断歩道は対岸の神社へ行くためだけに存在するようだ。
吸い込まれるように鳥居へと向かっていく。
立石稲荷神社。
ファインダーを覗いてみると本当に吸い込まれそうになる。
崖の上というか中腹に無理やり作られたような小さな神社と連続した赤い鳥居はなかなかにインパクトがある。
しかも当たり前のように人がいない。周囲は木々に覆われていてどことなく薄暗い。不思議な空間だ。
この神社は関門海峡を見守る守り神として祀られているそうで、更に元を辿れば平家に行きつくらしい。
平家が西へ下った際に京都の伏見稲荷の分霊をここに祀った。しかし源平合戦のひとつである屋島の合戦で敗れた平家が彦島に敗走中、この神社がある付近の海域で沈没したという。想像した以上に歴史のある神社だった。
下関市は源平合戦から北前船、他にも長州藩と欧州の連合国が戦った下関戦争や日本と清が結んだ下関条約の舞台でもある。
常に歴史を動かしてきた本州最果ての地を、またゆっくりとカメラを持って歩いてみたい。
使用機材
カメラ:NikonFE
レンズ:AI Nikkor 35mm F2S
フィルム:Kodak GOLD 200